太陽光発電普及の定番 期待の「ソーラー屋根台帳」

太陽光発電普及の定番 期待の「ソーラー屋根台帳」

https://solarjournal.jp/solarpower/1763/

太陽光発電普及の定番 期待の「ソーラー屋根台帳」

東京都環境公社と東京都は、建物のソーラーへの適正が一目で分かるWEBマップ「東京ソーラー屋根台帳」を日本で初めて開発・公開している。

この東京ソーラー屋根台帳は、航空測量データを利用した3次元モデル解析により、屋根の面積や角度、近隣建物による日陰の影響が計算され、各建物の太陽光発電への適性が示される。建物にカーソルを合わせクリックすると建物ごとに太陽光発電の設置可能容量や推定年間発電量等が表示されるものが一般的で、市民が太陽光発電設置の際に参考とすることができる。

また、タブを切り替えるだけで太陽熱利用システムへの適性も一目でわかり、更には建物をクリックすると建物がある区市町村ごとの施策(補助金情報、イベント等)も表示されるなど、工夫されている。なお、本施策は、他地域への波及が期待されること等が評価され、27年度の新エネ大賞(新エネルギー財団会長賞)を受賞した。

このソーラー屋根台帳は、世界では既に80以上の自治体で導入されており、太陽光発電普及策の定番となりつつある施策である。ここでは、筆者がヒアリングを行った5つの自治体におけるソーラー屋根台帳を紹介したい。

世界で初公開したのは環境先進都市フライブルク(ドイツ)

ソーラー屋根台帳を最初に公開したのは、ドイツのフライブルク市といわれている。「とても適している(緑色)」「適している(黄色)」「要現地調査(青色)」で太陽光発電への適性ごとに各建物が色づけされ、建物をクリックすると設置可能容量や年間推定発電量、二酸化炭素削減量などが表示される。

このソーラー屋根台帳は2008年に公開されているが、フライブルク市の担当者によると、環境都市を標榜する同市にとして「ドイツ初」となることは極めて重要で開発を急いだとのことだ。ただ、その後、続いて公開したボン市のものが、デザインもよく情報量が多いことから悔しい思いをしたと語っていた。フライブルク市、ボン市とも環境都市を掲げており、自治体間での施策の競争関係が垣間見える。

環境先進都市ボン市(ドイツ)も続いた

ボン市のソーラー屋根台帳が右図であるが、確かにフライブルク市の担当者が悔しがったとおり、とても見やすい。「とても適している(赤色)」「適している(オレンジ色)」「適していない(青色)」で色分けされており、「とても適している」と「適している」と表示された屋根を合わせると30万kW以上の太陽光発電設置ポテンシャルがあるとのことだ。

現在、既に設置されている太陽光発電の容量は1万kW程度であるからまだまだ設置ポテンシャルは残っていることになる。ボン市ではこれらソーラー屋根台帳から算出されたポテンシャル値を自治体の政策の参考にしているという。

なお、画面を切り替えるだけで、太陽熱利用システムへの適性も太陽光発電と同様に表示される。太陽熱利用システムは、太陽光発電に比し、狭い屋根面積でも設置可能なことから、切り替えると赤に色づけされた建物の割合が多くなる。

カールスルーエ市(ドイツ)は、ソーラー屋根台帳を活用した独自の取組を実施

ソーラー屋根台帳をうまく利活用し、太陽光発電普及施策を積極的に展開しているのが、カールスルーエ市等が運営費を負担するカールスルーエ市エネルギー・温暖化防止活動公社だ。この公社は、太陽光発電の無料設置相談や省エネ等に関するセミナーを実施している団体で、2010年からカールスルーエ市でソーラー屋根台帳を公開している。

この公社では、ソーラー屋根台帳により太陽光発電に適した建物(赤色の建物)を抽出し、その建物所有者に太陽光発電設置の無料相談の案内を送っている。ソーラー屋根台帳で太陽光発電への興味を持ってもらい、無料の設置相談を経て、設置につなげる試みだ。

なお、欧州では都市計画を策定するにあたって、航空測量データの活用が進んでおり、各市役所はソーラー屋根台帳作成に必要なデータを既に所有している。更には都市計画づくりのため、航空測量データを自在に扱うことのできる技術者を市役所職員として抱える自治体もある。こうした背景もあり、ソーラー屋根台帳は欧州に広がっている。

ソーラー屋根台帳の導入が進んでいるのは欧州だけではない。米国でもニューヨーク市やサンフランシスコ市といった大都市を中心に公開されている。

ニューヨークのソーラー屋根台帳は情報満載

ニューヨーク市のものは、既に太陽光発電が設置された建物が分かるのが特徴だ。太陽光発電の設置情報は、設置事業者が建物所有者の了解を得て、ソーラー屋根台帳を運営するニューヨーク市立大学に情報提供する。

設置事業者の社名も載るので、情報提供のインセンティブになるというわけだ。このソーラー屋根台帳は、設置可能容量や州の補助金、国・州・市の減税額がそれぞれ計算され、建物ごとに設置の際のコスト回収年数までもが参考値として示される。

[参考]ニューヨーク市のソーラー屋根台帳:http://www.nycsolarmap.com/

サンフランシスコ市(米国)は導入事例や風況情報も

サンフランシスコ市(米国)は、ソーラー屋根台帳に様々な機能を付加して、「サンフランシスコエネルギーマップ」として公開している。建物の太陽光発電への適性のみならず、太陽光発電導入事例の紹介や地域の太陽光発電販売店紹介へのリンクも含まれる。また、風力のポテンシャルも分かるのが特徴だ。

[参考]サンフランシスコ市のソーラー屋根台帳:http://sfenergymap.org/

このように欧米を中心にソーラー屋根台帳は世界に広がっている。日本では現在東京都のみが公開しているが、これまでに様々な自治体から問い合わせがあった。今後、ソーラー屋根台帳が、日本の自治体に広がっていく可能性は十分にある。

最後に、誰でも手軽に楽しみながら使っていただける東京ソーラー屋根台帳に、是非一度アクセスいただきたい。

東京ソーラー屋根台帳

http://www.tokyosolar.jp/


稲垣憲治
(公財)東京都環境公社 東京都地球温暖化防止活動推進センター(東京都 環境局 地球環境エネルギー部)
平成17年3月東京大学大学院修了(エネルギー工学)。同4月文部科学省入省、原子力計画課係長などを経て22年3月退職。同4月東京都庁入庁。ソーラー屋根台帳、屋根貸しマッチング事業、シティチャージ設置事業など自治体の新しい太陽光発電普及策の企画に従事。26年4月から(公財)東京都環境公社(都から派遣)。5か国10都市で先進都市の再生可能エネルギー普及策等を現地調査。

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