再エネ拡大にインパクトを与えるか、動き出した地域の金融機関

再エネ拡大にインパクトを与えるか、動き出した地域の金融機関

https://solarjournal.jp/sj-market/46375/

再エネ拡大にインパクトを与えるか、動き出した地域の金融機関

2021年の銀行法改正により、地方銀行が発電事業に参入する動きが増えている。発電事業の基礎となるファイナンス面をケアできるという点では、業界にとっては大きな革新であろう。金融機関の発電事業について、実例を交えながら解説する。

日本における再エネ拡大の
鍵となりえるもの

ウクライナへの侵略が長引き、インフレが戦争当事国以外にも暗い影を落としている。また、世界の脱炭素策は再エネ主導で変わらないが、一時的に石炭など化石燃料に頼るという矛盾の中にある。

2030年に46%の温暖化ガスの削減という野心的な目標を掲げる日本では、電気代の値上がりに加えて冬に向けての電力ひっ迫の恐れ、系統整備やEV普及の遅れなど、目標達成に向け明るい材料が見当たらない。

一方で、ローカルでの動きが日本の再エネ拡大に一筋の光明を照らすかもしれない。それは、再エネプロジェクトの大きなカギを握るファイナンスでの取り組みであり、地域の金融機関が主役であることがこれまでと違って新しい。

続出する、
地銀の発電事業参入

実例からお話ししよう。
今年の5月、鳥取県と島根県で事業を行う山陰合同銀行が、地方銀行として初めて発電事業への参入を発表した。子会社を作って、耕作放棄地などで行う太陽光発電所(計14MW)を運営管理し、鳥取県米子市と境港市の公共施設およそ600カ所に電気を送る計画である。2つの都市が進めるゼロカーボンシティ構想を、再エネ電力の供給で直接支援する。先日、発電と電力供給事業を行う子会社の「ごうぎんエナジー」が設立されたばかりである。

(ごうぎんエナジーの事業イメージ、出典:同プレスリリース)

目指すのは「地域脱炭素の達成」と明記され、同時に、地産再エネによる地域内経済循環拡大と地域課題の解決をうたっている。

同じ5月に、茨城県の常陽銀行が、「常陽グリーンエナジー」の設立を発表した。こちらは、バイオマスなど多種の再エネ発電を視野に入れる。さらに7月中旬には、長野県の八十二銀行も、同様の発電事業と地域商社機能を兼ね備えた「八十二 Link Nagano㈱」の設立を明らかにし、後に続いている。

何といっても強みは、一定の費用が掛かる発電事業の肝となるファイナンスを自らケアできる点である。地域内で発電事業を進めたくても融資が下りずに断念した多くのケースを知るだけに、地域の金融機関の直接関与のインパクトは大きい。

再エネ拡大にインパクトを与えるか、動き出した地域の金融機関

銀行法の改正が後押しする
地方金融の脱炭素ビジネス

ここにきて、金融機関が再エネ発電を手掛け始めたのは、昨年2021年の銀行法改正による。これまでも「銀行業高度化等会社」として、子会社が銀行以外の他の業務を行うことはできたが、デジタルなど限られた分野しか認められていなかった。

(銀行法等の改正(業務範囲規制の見直し、銀行の子会社・兄弟会社) 出典:金融庁)

 しかし、改正によって、“地方創生などの持続可能な社会の構築につながる業務”を営むことができるようになった。さらに、業務内容も、「銀行の創意工夫次第で幅広い業務に取り組むことが可能」と自由度が拡大している。山陰合同銀行の子会社、ごうぎんエナジーは、改正に沿った、発電に関わる最初の例である。

銀行法の改正とは直接関係しないが、この他、地域金融機関の活動で目立つのは、取引先の脱炭素化の支援である。特に、スコープ1,2,3で求められる温暖化ガスの排出量の算定のサポートがこのところ増えている。地銀などが、算定技術の保有会社と業務提携し、取引先企業の排出量の可視化や削減提案、資料作成などを支援するが一般的である。脱炭素を進めることで取引先の企業価値を上げたり、新しい資金需要を生み出したりなどで、厳しい経営環境にある地方金融機関の生き残りを図る目的もそこにはある。

改正前から取り組む先進例
~秋田、北都銀行

長期にわたって地元の再エネ拡大に取り組んでいる地域の金融機関もある。
秋田県の北都銀行は、10年前の2012年9月に、同社グループと地元の企業などと共に、風力発電の事業会社「株式会社ウェンティ・ジャパン」を立ち上げた。日本海側の優れた風を利用して、風力発電の開発、運営、管理などを行うことが目的である。地域資源の有効利用と地域内での経済循環が、人口が急減する秋田県の地銀としての重要な役割との考え方が根底にある。

事業は順調に進み、県内36基を含む風力発電38基を稼働させ、発電能力は100MWを超えている。秋田市から潟上市にかけての風力発電プロジェクト「秋田潟上ウインドファーム」は、合計22基、66MWの発電能力を誇る。事業主体は、ウェンティ・ジャパンが51%出資、三菱商事の関連会社などとの合弁である。このほか、秋田沖の3つの洋上風力プロジェクトの開発や市民出資による風力発電も積極的に進めている。

(「秋田潟上ウインドファーム」、撮影:筆者)

地銀としての北都銀行の姿勢は一貫している。
預金等残高、貸出金残高共に県内比率が9割を超え、事業の基本は地域である。
また、北都銀行の再エネ事業へのプロジェクトファイナンスは突出していて、再エネ向けの融資残高は全体の14%以上、およそ600億円となっている。
一方、企業として自らの脱炭素にも熱心である。
2021年1月には、地方銀行で初めて、秋田県でも初となる『再エネ100宣言RE Action』に参画し、再エネ電源への転換を表明した。地域の再エネ発電所の電力を活用し、2050年までに使用電力100%の再エネ化を目指している。

ファイナンスは、プロジェクトの基本であり、ネックにもなり得る。
再エネ拡大の推進役本体に金融が参加すれば、事業展開に弾みがつく。また、それが地域の金融であれば、直接、地域の経済循環効果が期待できる。地域主導の脱炭素は政府も掲げる旗印であり、地域の金融機関はその強力な担い手になる大きな可能性を秘めている。

 

プロフィール

エネルギージャーナリスト。日本再生可能エネルギー総合研究所(JRRI)代表。

北村和也

Subscribe to our newsletter

Promotions, new products and sales. Directly to your inbox.