2024年度の脱炭素ビジネス【発電側課金・脱炭素オークション・非化石価値取引】

2024年度の脱炭素ビジネス【発電側課金・脱炭素オークション・非化石価値取引】

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2024年度の脱炭素ビジネス【発電側課金・脱炭素オークション・非化石価値取引】

発電事業者にとって、需要家にとって、すべての再エネ関連事業者にとって、大きな影響を及ぼすことになる制度改革が続いている。それは社会に何をもたらし、ビジネスをどう変えていくことになるのか? 発電側課金、脱炭素オークション、非化石価値取引、いま注目すべき3つの動きを整理した。

【発電側課金】
託送料金の一部を
発電事業者が負担することに

2024年4月より「発電側課金」が導入される。発電側課金とは、託送料金の一部を発電事業者に負担させるというもの。現行の託送料金制度においては、託送料金はすべて小売電気事業者に課金されているが、4月以降は発電事業者(電源)も課金の対象となる(図表1)。

経済産業省は、「発電側課金は系統を効率的に利用するとともに、再エネの導入拡大に向けた系統増強を効率的かつ確実に行うため、小売事業者がすべて負担している送配電設備の維持・拡充に必要な費用について、需要家とともに系統利用者である発電事業者に一部の負担を求めるものである」としている。なお、発電側課金は、原則として、一般送配電事業者に系統連系受電サービス料金として支払うこととなる。

発電側課金導入に伴う託送料金の取り扱い(図表1)


出典:電力・ガス取引監視等委員会

課金対象

発電側課金においては、「系統に接続し、かつ系統側に逆潮させている電源すべてを課金対象とすること」が基本になっている。ただし、「系統側への逆潮が10kW未満と小規模なものについては、当分の間、課金対象外」とされる(図表2)。

FIT/FIP電源については、次のように整理されている。「既認定FIT/FIP電源は調達期間等が終了してから発電側課金の対象とする。また、新規FIT/FIP電源については、調達価格等の算定において考慮する」。

発電側課金の課金対象(図表2)


出典:電力・ガス取引監視等委員会

2種の課金方法

発電側課金は、契約kWに基づく固定料金である「kW課金」と、従量料金である「kWh課金」の2つの方法で課せられる。

「kW課金」の対象となるkWは、需要と発電が同一地点にある場合、需要の契約kW(順潮)を上回る発電の契約kW分(逆潮)について発電事業者の負担となる。1つの需要場所(発電場所)に複数の契約がある場合は、需要の契約kWを合算したうえで、発電の契約kWで按分し、課金対象kWを算出する。

「kWh課金」は、設備の利用状況(kWh)に応じて課金されるもので、発電電力量を測定するメーターの計量値から算出される。

発電併設蓄電池の扱い

発電併設蓄電池を設置した場合も、「kW課金」は原則どおり課せられる。ただし、調達期間等内の既認定FIT/FIPは、調達期間等が終了してから発電側課金の対象となるため、調達期間等内の既認定FIT/FIPに蓄電池を併設する場合のkW課金の対象は、発電併設蓄電池の系統からの引き込みによる充電に基づく放電部分となる(図表4)。課金対象部分の算出に関しては、当該既認定FIT/FIP電源と蓄電池の発電設備容量で按分し、蓄電池分を課金対象として算定する方針が示させている。

発電併設蓄電池を設置した場合のkWh課金は、蓄電池の系統からの引き込みによる充電に基づく放電以外(発電設備からの発電分)が対象となる。ただし、調達期間等内の既認定FIT/FIPに併設して蓄電池を設置する場合は、調達期間等が終了してから発電側課金の対象となる。

発電併設蓄電池を設置した場合の発電側課金の扱い(図表4)


出典:電力・ガス取引監視等委員会

課金単価の設定

発電側課金で回収する送配電設備費用に関しては、「現在、託送料金で回収することとなっている原価のうち、発電側と需要側の両方で等しく受益していると考えられる設備の固定費」とされ、その費用を発電側(発電事業者)と需要側(小売電気事業者)の両方で均等に負担することが基本となる。

具体的には、送配電関連費用のうち、上位系統(基幹系統および特別高圧系統)に係る費用(送電費および受電用変電費)のうち固定費について、発電側も需要側もkW当たりの費用負担が等しくなるよう按分する(図表3)。そのうえで、発電側で負担する対象原価を1:1で按分し、「kW課金単価」と「kWh課金単価」を算出する。

発電側課金の制度設計を行っている経済産業省 電力・ガス取引監視等委員会の資料(6月27日公表)によると、課金単価(試算値)は図表5のとおり。なお、実際に一般送配電事業者が発電事業者に課金する際には、課金単価に対して次の割引が適用されることになる。

課金単価の設定方法(対象費用のイメージ)(図表3)


出典:電力・ガス取引監視等委員会

割引制度

発電側課金の実施にあたっては、電源の立地地点に応じて、発電側課金の負担を軽減する割引制度も導入される。電源が送配電設備の整備費用に与える影響を、課金額に反映させようとするものだ。

割引には、次の2種類が設定される。基幹系統に与える影響に着目した割引A(基幹系統投資効率化・送電ロス削減割引)と、配電系統に接続する電源を対象とし、特別高圧系統に与える影響に着目した割引B(特別高圧系統投資効率化割引)だ。なお、電源が送配電設備に与える影響は、契約kWに依存する面が大きいことから、割引制度の対象は「kW課金」部分となる。

これを踏まえ、東京電力パワーグリッドなど一般送配電事業者7社は10月17日は、発電側課金における割引エリアを公表した。

発電側課金の課金単価に関する試算(図表5)


※上記は現時点での試算値。発電事業者に一般送配電事業者が課金する際には、課金単価を割引額や割引相当額によって補正することとなる。
出典:電力・ガス取引監視等委員会

発電側課金の転嫁

発電側課金導入に伴う費用負担は、発電事業者が一方的に追うことになるため、費用負担を小売電気事業者に適正に転嫁できるようにすることも必要とされる。経済産業省では、最終的には「需要家に転嫁されていくことで、制度趣旨である系統の効率的利用や系統増強の確実な実施が図られていく」とする。

【長期脱炭素電源オークション】
将来の供給力に拠出し、
脱炭素電源の新設を促す

2024年1月に、「長期脱炭素電源オークション」の第1回オークションが実施される。新規電源投資を促進し、長期にわたって脱炭素電源による供給力を調達するために、容量市場のなかに創設された入札制度だ。

容量市場との関係

現行の容量市場は、落札電源の大部分が既設電源となっており、電源への新規投資を促進することはなかった。そのため、現行の容量市場の入札とは別に、新規電源投資を対象とし、長期的な収入の予見可能性を付与し得る入札制度として、2023年度から動き始めている。詳細制度設計が先頃まとまり、来年度以降の本格運用に向けて関心が高まっている。

経済産業省では、脱炭素電源オークションの目的は、「中長期的な観点から安定供給上のリスクや価格高騰リスクを抑制すること」、並びに「2050年カーボンニュートラルの実現に向け、需要家に対して、脱炭素電源の供給力の価値を提供すること」にあるとする。

オークションの仕組み

そもそも容量市場とは、将来の電力の供給力を一括して確保するためのもので、発電設備が持つ供給力(kW価値)についてオークションを行い、その供給力に応じて対価を決定する仕組みだ。

オークションは、電力広域的運営推進機関(OCCTO)が主催し、全国で必要な将来の供給力を想定し募集量を定める。供給力(発電設備)を持つ発電事業者等がオークションに応札し、落札した発電事業者に支払われる対価は、容量拠出金という名目で小売電気事業者が応分に担うこととなる。

制度適用期間は20年

容量市場のメインオークション(従来からのもの)では、小売電気事業者による供給力の提供期間は単年度(応札の4年後に供給)だったが、長期脱炭素電源オークションにおける供給力の提供期間は原則20年だ。落札電源は、建設リードタイムを経た後に、落札価格に応じた「容量収入」を供給力提供開始後20年間にわたり固定化した形で得ることができる(図表1)。

なお、制度適用期間の開始は2027年度以降となる。

長期脱炭素電源オークションにおける供給力確保の仕組み(図表1)


出典:電力広域的運営推進機関

対象となる電源

容量市場のメインオークションでは、対象電源の種別にほとんど制約はなかった。一方、長期脱炭素電源オークションで対象となるは、脱炭素電源の新設・リプレースおよび改修における新規投資に限られる(ただし、2023〜2025年度はLNG専焼火力を含む)。

具体的には図表2のとおりだが、脱炭素電源といっても再生可能エネルギーだけではなく、原子力等も含まれていることには注意が必要だ。

長期脱炭素電源オークションの参加対象となる電源(図表2)


出典:電力広域的運営推進機関

マルチプライス方式

脱炭素オークションでは、発電事業者等は、定められた応札単位で応札容量と応札価格(円/kW/年)を決め、オークションに応札する。発電事業者等による脱炭素電源の応札に対し、マルチプライス方式で落札が決まっていく。応札価格の低い順に電源が落札され、募集量を満たす電源までが落札電源になるというものだ。

ここでは原則、電源種で区別することなく、電源種混合で競われる。このマルチプライス方式では、落札電源の応札価格がそのまま、それぞれの約定価格となる(図表3)。

マルチプライス方式における約定イメージ(図表3)


出典:電力広域的運営推進機関

応札単位

応札は、原則として電源(ユニット・号機)単位となる。ただし、太陽光発電や風力発電など、複数の電源を集約し計量することが一般的な電源種の場合は、異なる単位での応札が認められる(図表4)。

応札単位のイメージ(図表4)


出典:電力広域的運営推進機関

募集量400万kW

経済産業省では、「足下の1・2億kWの化石電源を全て脱炭素電源に置き換えていくとすると、年平均で600万kW程度の導入が必要となるが、今後のイノベーションにより効率的に導入することが可能となる可能性もあることを踏まえ、本制度の初期段階における脱炭素電源の募集量は、スモールスタートとしていく」という方針を示してきた。

これを踏まえ、第1回オークションにおける脱炭素電源の募集量は、「400万kW(応札容量ベース)」とし、翌年度以降の募集量は、落札電源の状況や今後のイノベーションの動向を踏まえて検討するとされた。

今後の予定

現在、事業者情報、電源等情報の登録受付が行われている。応札受付は2024年1月23日から30日まで。約定結果の公表は応札の受付終了から3か月後を目途に実施される。

【非化石価値取引】
トラッキングを強化して、
電源属性を証書価格に反映

現在、再生可能エネルギー等の環境価値(非化石価値・再エネ価値)を売買する市場には、「再エネ価値取引市場」と「高度化法義務達成市場」がある。2つの市場を総称して、「非化石価値取引市場」とも呼ばれる。

いずれの市場においても、再エネ電力が有する環境価値を電力そのものから切り離して、証書という形にして取り引きする。

再エネ価値取引市場
高度化法義務達成市場

再エネ価値取引市場はFIT電源を対象とし、証書の種類は「FIT証書」となる。高度化法義務達成市場は非FIT電源を対象とし、証書の種類は「非FIT非化石証書」となる。さらに、非FIT非化石証書は、電源の種類に応じて2つに分けられる。大型水力や卒FIT電源に由来する「非FIT非化石証書(再エネ指定あり)」と、原子力とゴミ発電(廃プラスチック)に由来する「非FIT非化石証書(再エネ指定なし)」だ(図表1)。

両市場において、8月末に2023年度第1回オークションが行われた。その結果を踏まえて、現在、非化石価値取引のさらなる活性化に向けた市場ルール見直しの議論が進められている。

2つの市場の違いと非化石証書の種類(図表1)


出典:資源エネルギー庁

トラッキングの
現状と課題

見直しの大きなテーマとなっているのが、「トラッキング」のあり方についてだ。トラッキングとは、再エネの電源種別や所在地などの情報を証書に付与することであり、近年、これを求める需要家のニーズが高まっている。

FIT証書については、2021年の再エネ価値取引市場の創設に合わせて、原則、トラッキング化されている。高度化法義務達成市場で取り引きされる非FIT非化石証書(再エネ指定あり)についても、順次トラッキング化が進められているところではある。しかし、増大するトラッキングニーズに追い付いていないのが現状だ。

現行の制度では、市場取引分の非FIT非化石証書については、再エネ指定ありであっても、事前に発電事業者がトラッキングを希望しない限り、トラッキング情報は付与されない。また、トラッキング情報の有無は市場での約定価格に直接関係がなく、発電事業者にとってはトラッキングを希望するメリットがないことなどから、市場取引分の非FIT非化石証書のラッキング付与率は約7%に留まっている。

一方、FIT証書のトラッキングは年々増加しており、2023年8月分オークションにおけるトラッキング割当量(53億kWh)は、昨年8月オークションにおける割当量(22億kWh)の2倍超となっている(図表2)。しかし、割当可能量の内訳(図表3)を見ると、小売買取分が全体の半数余りを占め、希望する小売電気事業者への任意の割当可能量は、売り入札全体の35%にとどまっている。

トラッキングの見直しに際しては、①トラッキングの対象、②現行の優先割当ての扱い(FIT証書)、③入札方法・約定ルール、を主な論点として検討が進められている。以下、資源エネルギー庁が示している方針を紹介する。

FIT証書トラッキング割当量の推移(図表2)


出典:資源エネルギー庁

FIT証書トラッキング割当可能量の内訳(図表3)


出典:資源エネルギー庁

属性情報を価格に反映

現在の約定価格には、電源の属性に応じた非化石価値の差異が反映されていない。また、足元では、再エネのトラッキング情報に対する需要が拡大する一方、特定の属性情報を有するFIT証書について、購入者の希望量に対して割当可能量が不足する事態も生じている(図表4)。

こうした状況を踏まえ、現行のトラッキングのあり方を見直し、非化石電源の属性情報ができる限り証書価格に反映されるよう、証書の購入者が入札時に希望する非化石電源の属性情報を明確化する。あわせて、市場取引分に係るトラッキング情報の割当可能量をできる限り増やす。

FIT証書(太陽光)トラッキング都道府県別需給状況
/2023年8月分オークション(図表4)


(注)割当可能料には、小売売買や再エネ特定卸供給分は含まれていない。 出典:資源エネルギー庁

トラッキングの対象

現状では、トラッキングの対象外になっている再エネ指定なしの非FIT非化石証書についても、トラッキングの対象とする。

同時に、買い手が入札時点でトラッキング情報の希望を出す一助となるよう、例えば、過去の非FIT証書の売り入札の属性情報を開示することを検討する。

優先割当ての扱い

現状では、市場を介して取り引きされるFIT電源のトラッキング情報については、オークション前に小売電気事業者または需要家が発電事業者と個別に合意形成した場合、その小売電気事業者または需要家は特定設備の属性情報を優先的に得ることができることになっている。この扱いについても、今後検討を深めていく。

入札方法・約定ルール

トラッキングに関連して、入札方法や約定ルールについても見直しを行う必要がある。例えば、入札に際し、小売電気事業者は、どのような粒度(電源種、発電所の所在地、運転開始後の年数等)で希望を出せるようにするか。また、希望に応じた証書の供給量が不足する場合、どのような約定ルールとするかなど。

なお、見直しに当たっては、市場参加者の利便性の向上や、取引の効率性の確保が重視されなければならない。


取材・文:廣町公則

SOLAR JOURNAL vol.47(2023年秋号)より転載

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