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太陽光発電・蓄電池を全世帯に 藤沢市の進化を続けるまちづくり
2023/09/25
世界にさきがけて太陽光発電システムと蓄電池を全ての住宅・公共ゾーンなど、街区全体に標準装備した神奈川県藤沢市のスマートタウンが来年の秋口に完成する。パートナー企業と藤沢市が官民一体となって、絶えず進化を続けるまちづくりを目指している。
(アイキャッチ画像 出典:FujisawaSST協議会)
工場跡地を活用
100年続くまちづくり
太陽光発電システムと蓄電池を全世帯に標準装備(出典 FujisawaSST協議会)
人口約44万4000人の神奈川県藤沢市。都心へのほどよい近さと豊かな自然が両立する湘南エリアの中心都市だ。JR・小田急・江ノ電の藤沢駅からバスに乗って約15分。「Fujisawa サスティナブル・スマートタウン(Fujisawa SST)」は、2014年に誕生した。太陽光発電システムと蓄電池を備えた住宅が整然と並んでいて、いまも新興住宅街の雰囲気が残る。「工場跡地を活用して、パナソニックグループをはじめとするパートナー企業のみなさまと議論を重ねながら、そこに住む人の快適性や未来のくらしを重視したまちの実現を目指してきました」。まちづくりを担当する藤沢市企画政策課の西野祥隆課長補佐は胸を張る。
Fujisawa SSTは、旧松下電器産業藤沢工場の跡地を活用したまちづくりプロジェクト。東京ドーム4個分にあたる、約19haの土地を再開発した。総事業費は約600億円。計画では、住宅約1,000戸(計画人口は約3,000人)を中心に、商業施設や福祉・医療関連施設、教育施設などを複合的に整備する。
高度成長期初期の1961年に操業を開始した藤沢工場は、当時、売り上げが伸びていたテレビや冷蔵庫などの家電製品を製造していた。創業者の松下幸之助氏が、都市部への人口集中を解決するため地方に工場を建設し、雇用の創出や地域の活性化を目指したという。2009年に工場を閉鎖したあと、その跡地にパナソニックが中心となって整備したのが、Fujisawa SSTだ。
Fujisawa SSTはパナソニックにとって初めての街づくりだ。そこで同社は、孫世代まで安心して暮らせる「100年続くまち」をキャッチフレーズに掲げ、各分野に秀でた企業とパートナーシップを結び、先端のテクノロジーを投入しながら協業を深めていった。パナソニックグループを代表幹事とする「FujisawaSST協議会」を構成するのは18団体。パートナー企業のうち9社が共同で「Fujisawa SST マネジメント株式会社」を設立した。地元の藤沢市とは計画当初から手を取り合い、社会や地域が抱える課題解決を行うため、さまざまなステークホルダー(住人・企業・行政・大学)と連携し、プロジェクトを進めてきた。パナソニックはこのまちの規模から、Fujisawa SSTをスマートシティではなく、スマートタウンと呼んでいる。
「やってみなはれ」。これは、創業者の松下幸之助氏が良く口にしていた言葉である。「失敗したところでやめるから失敗になる。成功するまで続けたら、それは成功になる」という思いが込められている。創業者の熱い思いが、「100年続くまち」を目指すFujisawa SSTプロジェクトに脈々とつながっている
世界にさきがけ
太陽光発電・蓄電池を街区全体に
スマートハウス(出典 FujisawaSST協議会)
Fujisawa SSTは、世界にさきがけて太陽光発電システムと蓄電池を全ての住宅・公共ゾーンなど、街区全体に標準装備しているのが特徴だ。さらに全ての戸建住宅に、家庭で使用する電力をマネジメントする「スマートHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)」を備えている。これにより街全体での二酸化炭素削減70%(1990年比)の実現を目指している。
公共用地に設置したコミュニティソーラー(出典 FujisawaSST協議会)
Fujisawa SSTの街区の南側を道沿いに歩くと、塀沿いに2列に取り付けた太陽光パネルが細長く設置されている。これは、パナソニックが「コミュニティソーラー」と名付けた太陽光発電システム。パネルの下の地中には下水管があり、その上は公共用地。タウンマネジメント会社が藤沢市から土地を借りて設置し、平常時はFITを活用して東京電力に売電している。停電時には、周辺地域にも電源を供給する計画だ。
生きるエネルギーが
うまれる街。
セントラルパーク(出典 FujisawaSST協議会)
Fujisawa SSTが目指すまちづくりは、「まちを絶えずアップデートしていくこと」。藤沢市とパナソニックは2010年にプロジェクトのコンセプトおよび、その実現に向けた基本合意を結び、その翌年にFujisawa サスティナブル・スマートタウンまちづくり方針を策定した。そこで示したコンセプトは「生きるエネルギーがうまれる街。」。エネルギー、セキュリティ、モビリティ、ウェルネス、コミュニティ、さらに非常時まで、くらしのあらゆる場面で「生きるエネルギー」をうみだし続けるまちづくりを目指す方針を打ち出した。
見守り監視システム(出典 FujisawaSST協議会)
世界にさきがけて太陽光発電システムと蓄電池を街区全体に標準装備した Fujisawa SSTには、日本国内のみならず、世界50カ国以上から視察団が訪れている。これまでに訪れた視察者は約3万5000人。先進的なスマートハウスや自動配送ロボットなど、視察者の関心は多岐にわたる。
エネルギー価格が高騰するなか、ひと際関心を集めているのが、エネルギーの見える化だ。テレビのタウンポータルシステムで各家庭においてエネルギーをどれくらい使っているのかがひと目でわかるシステム。非常時には防災情報を確認できる。エリア内の高齢者施設では、パナソニック製のエアコンとセンサーによって、部屋の温度・湿度や居住者の生活リズムを見える化し、遠隔で見守りを行っている。
建材一体型の
「発電するガラス」
バルコニーへの設置の様子(出典 パナソニックHD)
絶えず進化を続けるまちづくりを目指すFujisawa サスティナブル・スマートタウン。今年8月、Fujisawa SSTに「住めば自ずとエネルギーがうまれる家」をコンセプトとしたモデルハウスが完成した。建築環境SDGsチェックリスト評価に基づいたテクノロジーや設備を導入し、心身の健康を実現するライフスタイルを提案している。ペロブスカイト太陽電池を利用した再生可能エネルギーの創出や、V2H蓄電システム、空調システムを採用しているのが特徴だ。
モデルハウス「Future Co-Creation FINECOURT Ⅲ」(出典 パナソニックHD)
このモデルハウスでは、世界初の取り組みとして、パナソニックホールディングス(パナソニックHD)が開発した「ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池」の実証実験が行われている。このペロブスカイト太陽電池は、同社独自の材料技術と、インクジェット塗布製法、そしてレーザー加工技術を組み合わせることで、サイズ、透過度、デザインなどの自由度を高めている。南南東に面した2階バルコニー部分に、幅 3876 mm、高さ950 mmのエリアで「発電するガラス」建材を設置し、2024年11月まで目隠し性と透光性を両立させたデザインとともに、長期設置による発電性能や耐久性などを検証する。
パナソニックHDは、2020年にペロブスカイト太陽電池の実用化レベルのモジュールで、世界最高のエネルギー変換効率17.9%を達成している。今年1月に米国で開催された世界最大のテクノロジー展示会(CES)には、建材一体型での適用を想定した透過型のモジュールを展示した。会場では、変換効率の高さに驚くとともに、早期の社会実装を求める声が数多く寄せられたという。
ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池の実用化および量産化の時期については、2028年までを目標にしている。パナソニックHDテクノロジー本部マテリアル応用技術センター1部の金子幸広部長は、「実証実験では長期の信頼性や出力変化などを確認するとともに、モデルハウスを訪れたお客さまに見ていただくことでデザイン性などを高めるために何が必要なのかを確認したい。今後は、国内だけでなく中国をはじめとする海外企業との競争力を高めるため、これまでパナソニックが培ってきた資産や商流を活かして、社会の課題解決につながるような暮らしに調和した製品開発に取り組んでいきたい」と述べた。
先端技術とサービスを実装して進化を続けるFujisawa SST。いまでは約2000人が居住し、来年の秋口にサービス付き高齢者向け住宅がオープンすると、基本合意から14年におよぶ街づくりが完成する。18団体で構成するFujisawaSST協議会は、「来年秋のハード面の完成で、まちづくりは大きな節目を迎えるが、今後もここで暮らす人たちの生の声をうかがいながら、新しいサービス・技術を取り入れ、サスティナブルにまちの発展進化を続けていきたい」としている。藤沢市企画政策課の西野祥隆課長補佐は「Fujisawa SSTが進めるスマートタウンのさまざまな取り組みを藤沢市全体にどのように広げていくことができるかが大きな課題。そのためにも、パナソニックグループをはじめとするパートナー企業と連携して、Fujisawa SSTの魅力をさらに高めていきたい」と話している。
10月6日(金)のPVビジネスセミナーでは、藤沢市企画政策課の課長補佐 西野祥隆氏が「工場跡地を活用したサスティナブル・スマートタウンが目指すもの ~ 進化を続ける街づくりのフロンティア ~」というテーマで講演する。